患者原理主義のお医者さん-上位20%の人材とは

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今回は私の友人のお話です。昔からのつきあいで、今は関西の某大学の医局で働いています。今では年に1回くらいしか会う機会がないのですが、数ヶ月に一回は電話で雑談などをしています。

その友人は、医者の中ではとにかく異色の人物で、いっぺんに書くと長くなるので、少しだけエピソードを紹介します。

例えば、お医者さんは、通常入院している患者さんに何か起こると、医局の電話から親族に電話をかけます。お医者さん個人の携帯電話はほとんと使うことがありません。お医者さんも当然人間ですから、自分の携帯電話番号が患者さんに知られると、気が休まらないのでしょう。中には残念ながら、手の打ちようの無い患者さんもいるでしょうし、休日くらいゆっくり休みたいと思うのが人情です。それでなくても激務の職場ですから、ある意味やむを得ない事だと思います。

ところが、この友人は、彼は自分のプライベートの(というか、それしかありません)携帯電話の番号を、外来、入院問わず、患者さんに配りまくっています。もし何か緊急事態が起きたら、夜中だろうが祝日だろうが、おかまいなしに電話をかけてくれ、といって配りまくっているのです。とにかく俺が責任を取る、守る、という意識がとても強い。勿論風邪で通院してきた患者さんにまでそんなマネはしませんが、なかなか出来る事ではありません。

また、仕事(治療)に対しての妥協もほとんどしません。なので、無保険でも安くて効きそうな薬があれば、患者さんに十分説明し、海外から薬を調達してきたりします。彼の勤務先は国立病院のため、これを実現するためには、気の遠くなるような事務手続きが発生します。「何かあったときの責任は個人一人で負う事に同意します」とか、とにかく膨大な書類を書きます。全て個人でリスクを負うため、手続き上、薬の輸入も個人輸入という形になります。自分で銀行に足を運び、直接自分の口座から立て替えて、海外送金の手続きをします。

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イメージ映像です(意味無いか・・・)   

今ではその製薬メーカーから「なんかよくわからんが、極東の病院から細かく注文がくるぞ」という事で、感謝状をもらったり、お友達(医者)紹介割引みたいな特別待遇を受けています。すっかり海外送金も手慣れたもので、銀行窓口のお姉ちゃんがとまどっていたりすると、支店長がやってきて「ああ、○○先生、またですね、吉田君、先生の方が詳しいから教えて貰いなさい」などとやっているそうです。

このほかにも、看護婦や医療機器メーカーの担当者を(本当に)泣かせたりしたこともあります。普通お医者さんというのは、普段の業務のかなりの部分を看護婦さんに依存していますので、敵に回すと自分の研究に支障が出ます。が、そんな事はおかまいなしです。医療機器の営業マンには「あんた、これで、自分のかみさんが検査されて、間違った結果が出て手遅れになったら、それどうする気なんだ」としかりつけました。ちなみに彼には機材の発注権限は一切ありません(ただのヒラなので)。とにかく全ては患者さんのため。患者さんから見ておかしな事には妥協しません。患者原理主義、プロフェッショナルそのものなのです。組織で言う上位20%に入ってくる「出来る人材」です。

彼の性格をよくわかっている私としては、医局間の越境も気にせず、前例もおかまいなし、間違っていると思えばとことんロジックで議論をするあの性格が、果たして医局なる組織で、冷や飯を食うことにならないだろうか、と、当初冷や冷やしていたのですが、キャラのなせる技か、上からの信頼も厚いようで、意外や意外(?)順当に頭角を現しているようで、少しほっとしていますし、また嬉しく思っています。

彼からは「俺は大学という守られた組織の中の職人だからこそ、好き勝手が出来る。何のツテコネもなく0から立ち上げて、人を使ってやってるお前はすごいなぁ。マネできないよ」とたまに言われますが、私から見れば、はるかに彼の方がすごい様に見えます(それに私は使われる方だし。社内雑用係・・・)

そして、彼の話を見聞きするにつれ、果たして自分はクライアント(患者)を、そこまで真剣に考えて、行動しているだろうか・・・?という事をいつも考えさせられます。恐らく出来てないでしょう。彼を特殊な人間として、マネ出来ないな、と片づけてしまうのはとても簡単です。また、全ての人が、彼のようにはなれないでしょう。

しかし、突き詰めた先にだけ、突き詰めた人だけが見える、何か新しい地平線というものが、私は気になって仕方がありません。その地平線を見ることなく、人生の終着駅を迎えるのか、それとも一目でも見ることが出来るのか。私は平均寿命から考えれば、まだまだ人生の終着駅を考えるような年代ではありませんが、彼と話をする度に、ふとそんな事を考えてしまいます。プロフェッショナルとして、良い仕事をしたい、と強く思っています。

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