緊急事態宣言も解け、人の動きも活発化してきました。私も4月から5月にかけ二回ほど東京出張がありましたが、人の動きはやはり若干ですが増えた様な気がします。体調には問題ありませんが、帰宅後一応なんちゃってPCRでチェックをしました(勿論陰性)。
で、そんな先日の出張の時のお話です。
羽田からの帰路、飛行機に乗り込むと疲れていたせいか早速ウトウトし出しました。離陸時間が迫り、キャビンアテンダントさん(昭和名スチュワーデス)が各席上部にある共用収納棚を一つ一つ手できちんとロックされているかチェックを始めました。良くある風景ですよね。
で、僕は下を向いてうとうとしていた訳ですが、そこにとあるキャビンアテンドさん(以下CA)さんが前方からやって来るのが見えました。で、CAさんが僕のすぐ手前で背伸びして荷物棚のロックをチェックした瞬間、
「ん?」
何と、左足のストッキングに割りと大きめの穴が開いているではありませんか。しかもその位置は背伸びしたときにスカートから出るか出ないかというものすごい微妙な位置です。
この瞬間から僕の弱々しいシナプスが、珍しく全力で高速回転し出したのです。
特に足をガン見していた訳では勿論ないので、もしかして何かの見間違いかな?いや、どう考えても黒地に肌出てたよね?色的に見間違いようがないよね?しかもそこそこのサイズだよ?これはCAさんに言ってあげた方がいんじゃない?いや何かものすごく言いにくくない?位置も位置だし。どうする??
するとそこにいきなり、悪魔君と天使さんが僕の両隣のシートにドカッと腰をかけ、勝手に語りかけてくるではありませんか。僕にしか見えてないのか、誰も二人に注意を払いません。
悪魔君が言います。
「田中ちょっと待てよ、もしそれがただの見間違いだったらどうする?足フェチガン見おぢさんでただのヘンタイ扱いだぜ?下手すると飛行機下ろされてお回りさんに自宅とは別の建物に連れて行かれちゃうぜ?な、面倒くせえからほっとこうぜ」。
すかさず反対側から天使さんが反論します。
「いやいや亨さん、見て見てない振りすると、彼女が恥をかいちゃうよ?かわいそうだよ、気づいたんだからちゃんと言おうよ」。
悪魔君が悪態をつきながら言います。「ちっ、天使よ、おめーホントに人が良いな。これでもしただの見違いだったらどうするんだよ。こいつの人生台無しだぜ。機内でも「あのお客さんよ、私の足ガン見してたの」「うわっ、いかにもしそうな人相のおっさんね」なんてスッチーに陰口たたかれて新千歳まで針のむしろだぜ。しかもその後乗客データベースにも「足フェチ 要注意」って書かれちまうぞ。そうなったら一生そのまんまだぞ。そうなってもいいのか?」
「人が良いから天使なの。いいじゃない、間違いだって。もし恥をかいてたら彼女がかわいそうだよ。彼女のために言ってあげるべきだよ」
「もしホントにそんなに大きな穴がストッキングに開いていたらなら、きっと他の客が言うって。わざわざ田中が言う必要ないだろ。どすんだよヘンタイ扱いされたら。それにこいつもしかしたらホントにただのヘンタイかも知れないぜ、この機会にそれがバレっちゃってもヤバいだろ?」
「亨さんはそんな人じゃありません!小学生の時混んでいる電車に乗っていて、つらそうに立っているおばあちゃんに席を譲って、その後新聞に載って全校集会でも表彰状貰った子なんだよ!」
「あれは一緒に乗ってた母親に言われてやっただけだろ!偽善だよ偽善!!」
お前らなんでそんな昔の事まで知ってるんだ、と思いながら、僕は逡巡していました。どうする、どうする田中?知り合いならまだ言えるけど、相手は縁もゆかりも全く面識のないCAさんです。いきなり勝手に人生最大のピンチに追い込まれたぜ・・・。すると天使さんがグッドアイデアを提案してきました。
「そうだ、天井の荷物棚は2列あるから、恐らく後ろからCAさんは戻ってくるよね。その時にもう一度チェックしたら?」
「おお、それはナイスだね!そうしよう!」僕は天使さんに語りかけました。もし他の乗客がこの光景を見ていたら別の意味で拘束されていた可能性がありますが、幸いな事に周囲に乗客はいません。という事で僕はCAさんが戻ってくるのを緊張した面持ちで待つ事にしました。緊張のあまりつばを飲み込みつつ、先程と同じようなウトウトポーズを装いつつ、視線を床に落とし気味にし、ごくナチュラルにCAさんの足が視界に入ってくるのを待ちました。勿論今回は本気のガン見です。やってる事だけを見ると完全にヘンタイのそれと同じなのは言うまでもありません。
CAさんが近づいてきます。3、2、1・・・
やっぱ穴開いてるやん。。。
しっかりがっちり穴開いてるよ・・なんでだよ・・、なんで後ろの客いわねんだよ。しかもやっぱり微妙な位置です。見間違いではありませんでした。悪魔君が言います「な、気にすんなって、いずれ誰か言うからよ」。天使さんも譲りません「誰かが言うって思う時、って、大抵全員そう思ってるから絶対に誰も言わないよ!このままCAさん恥かいちゃっていいの!?」。
こうなってくると、どうもそのCAさんが気になって仕方がありません。しかもちょうど離陸時にそのCAさんが座る位置が僕の座席からよく見えてしまい、気のせいか、何回か目線が会ったかも知れません。慌てて目線をそらしましたが、なんか益々マズい。不審者極まりないやんけ。ちなみにまだ飛行機は離陸していませんが、もう精神的には疲労困憊で気分的にはハワイ上空まで来た気分です。勿論行き先は新千歳空港です。
すると天使さんがここでダメ押しの一言を言いました。
「亨さん、同じ後悔するなら、やるべき事をやって後悔しましょうよ」。
おお・・天使さん、、、分かりました。私は意を決してドリンクサービスの時に言おう、と決意しました。既に何回か目線が合ってしまい、不審者マークされている可能性もありますから気が重いことこの上ありません。事態はどんどん悪化しています。
CAさんがドリンクカーゴを押しながら徐々に近づいてきます。なんて言おう?脳内でシミュレーションをするがうまくまとまりません。とうとうそのスッチーさんが近づいてきました。僕は全力で勇気をを振り絞りました。
「あ、あの」
「はい?」
「あ、あのですね、そのさっき見えたんですがfvgdh9う@9あい;fxhりwp」
小声で話しかけたので、聞きにくかったのか、しかも緊張のあまりおかしな日本語になってしまいました。
「はい?」
い、いかん!
「あの、左足のストッキング破れてます」
今度は加減を間違い、結構大きめの声になってしまいました(多分)。
すると、CAさんは、「あ?ありがとうございます」と言ったも知れませんが、正直頭が真っ白でその時の事はもうよく覚えていません。
CAさんが通り過ぎた後天使さんが満面の笑みで語りかけてきました。「亨さん、良く言いましたね!素晴らしいですよ!」悪魔君は不満そうです「ちっ、ただの自己満じゃねえの。そんな火中の栗拾ったって何も意味ねえじゃん。これで田中はヘンタイ決定だよ!」。
一大ミッションが無事終了した後、僕は疲れ果てて泥のように寝込んでしまいました。ふと目が覚めると、飛行機はランディング直前で両隣の天使さん悪魔君はもういません。
機内を出る時、前方で例のCAさんを見かけました。何か語りかけてくるだろうか、いきなり緊張感マックスです。
「ご搭乗ありがとうございました。ありがとうございました」
そのCAさんは僕にだけ一つ多く「ありがとうございました」と付け足してくれました。そこに特に強いニュアンスはありませんでしたが、他に余計な言葉は一切ありませんでした。その短いセリフにわずかに何かニュアンスが含まれていたような気がしますが、それが怒りなのか感謝なのか、どんなニュアンスまでかは分かりませんでした。言ったのが本当に良かったのかな。。。
こうして僕は無事ハワイに到着しました。
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