月1,000万PVを超えるコミュニティサイトを再建せよ!(1)

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ノベライズド・フィクションです

「どうも、ご無沙汰しています。最近どうしてますか?ちょっと会いませんか」電話をかけてきた相手は吉田だった。吉田はネットに明るく、過去には勤務先の通販サイトをイチから立ち上げ、業界団体から賞を何度も受賞した経歴の持ち主だ。業界の中でも顔はかなり広い。

吉田からの電話に伏見は面食らった。吉田とはとあるMLに一緒に参加している事もあり、一応面識はあったが、特に仲が良いわけでもない、というつきあいだったからだ。勿論一緒に仕事をしたこともない。ただ、その経歴から、彼のeビジネスに関するセンス、カンの良さは知っていた。勤め先を辞めたとは風の便りに聞いていたが、その後何をしているのか、伏見はよく知らなかった。勿論電話をかけてくるのも初めてである。

どうしたんだろう、と思ったが、まずは会って話をする事にした。「ちょうど来週東京行きますから、そこでお話するのはどうですか?」日時を約束して伏見は電話を切った。そしてこの電話が、彼とのものすごい濃厚なつきあいの始まりになろうとは、その時点では伏見は夢想だにしていなかった。

約束の日の夕刻、品川プリンスのラウンジで待っていると、「お元気ですか」と吉田が近づいてきた。すらりとした長身の細面で、相変わらず人の良い屈託のない笑顔を見せた。年齢は聞いたことは無いが、恐らく40中くらいだだろう。伏見より10歳近く年上のはずだが、あまり年齢を感じさせず、誰とでもフランクに話が出来るタイプの人間である。

二階のコーヒーラウンジに上がり、コーヒーを頼むと、吉田が開口一番、話を切り出してきた「伏見さんのところ、ブログの開発ってやってる?」「ブログ?」「ええ、ブログ、知ってますよね?」

今でこそブログは完全に市民権を獲得しているが、当時はライブドアブログも、アメーバブログも、おおよそ今となってはメジャーなブログは一つもなく、ポツポツといくつかのサービスが立ち上がったばかりのマイナーなサービスだった。しかしユーザーは爆発的に増加しており、どのサイトも夜半になると、トラフィックを裁ききれずにサーバが落ちていた。ユーザーからのクレームで軽い祭りもしばしば起きており、ブログ黎明期とも言える状態だった。

「ええ、知ってますよ。まだマイナーですが、今後大きくなりそうですよね。それがどうかしましたか?」「実は、うちで今やってるんですよ」吉田は自分の運営しているブログの説明を始めた。コミュニティのサービスをやりたくて会社を新規に立ち上げたこと、ブログに目を付けて始めたところ、爆発的に登録ユーザーやPVが伸びている事、大手が間もなく参入してくることや、サイトを買収したい、という話も数件転がり込んでいることなど、一通り説明をし出した。

「すごいんですよ、もうこれが」何度も吉田は同じフレーズを挟んだ。説明しながら、吉田が自分で興奮して来ているのが伏見にもわかった。さながら金鉱を掘り当てた坑夫みたいだな、と伏見は思った。ネットの世界では、しばしば「大化け」するサービスが何の前触れもなしに表れる。ブログも間違いなくその種類のサービスだと伏見は思っていた。

「それで」一通り説明が終わると、吉田は冷めたコーヒーを口元に運んだ。そしてゆっくりと息を吸ってから「実は、今とても困った事になってるんです」と言った。「困った事というと?」「実はこのサイトの開発は、予算も限られている事もあり、プログラマの社員が一人で開発を担当していたんですが、急遽辞めてしまう事になったのです」「それはまた大変な話ですね。でも、次の人をまた雇うのですよね?」「それで、実は良かったら、デジファでこのサイトを丸ごと面倒を見てもらえないだろうか?」

「え?」想定外のことに伏見は面食らった。ブログをやっている事も今聞いたばかりで、状況がよく見えない。「いや、勿論お仕事としては可能ですが・・・そのプログラマの方は、いつまでいらっしゃるんですか?引き継ぎはされるんですよね?」「いや、実は困った事に、もう辞めてしまってるんだ」「ええ?じゃあ今は・・・」伏見は更に驚いた。「そう、実質誰もシステムを見ていないんだ」これはかなりややこしい話になりそうだな、と伏見は直感的に思った。

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