マツタケを食べた事がない。
もはや50代の私だが、生まれてこの方マツタケを食べた事が無い。
厳密に言うと、外国産のは何度か料理店で食べた事がある。そのものと言うよりはスライスで料理に入れた形で香りもそれなりに風味豊か。
「マツタケってのは、あれは味と言うより香りを愉しむもんだよ」
という意見をたまに聞く。私のマツタケのイメージはまさにそれ。なのでまぁ、マツタケというのはこう言うものなのだろうとずっと思っていた。
またもう少し言うとするなら、マツタケを味わう、有り難がる、と言う習慣は、そもそも北海道民には全く無い。
なぜなら北海道にはマツタケは生えないからだ。
北海道ではマツタケは札幌のデパ地下など、極めて限られた場所だけでしか生えない、じゃなかった、売られていない。しかもごくわずかの時期と量であり、外国産のマツタケですら取り扱いは滅多に無い。都内のように普通の八百屋には誓っても良いが絶対に売っていない。そう、マツタケ不毛大国。それこそが都道府県魅力度ランキング13年連続ナンバーワンを誇る北海道の知られざるダークサイドなのである。
なので当然だが、北海道民の多くがそもそも生でマツタケを見たことがない。恐らく見た人の数で言うと上野動物園のパンダ並みに、いや下手をするとそれ以下かも知れない。何故なら国民的人気のパンダは北海道でも同様だが、マツタケはパンダとは比較にならない位北海道では人気が無いからだ。秋に東京に観光に出かけ、上野にパンダを見にいく人はいても、わざわざ「ね、デパートでマツタケ見ようよ!」と興奮した若い男女がいたとしたら、それはそれで看過できない別の種類の熱気はらんでいると言えよう。
この様に津軽海峡、ブラキストンラインを挟んでマツタケから隔絶された暮らしを強いられている我々北海道民ではあるが、当然ながらその事に対して一切、秋晴れの青空のように、見事なまでに何の不満も無い。
私を初め多くの北海道民が思う秋のキノコとは落葉キノコであり、タモキノコである。風味豊かで最高に美味い。これに比べれば、マツタケなんて香りだけでススキノのぼったくりバーの価格であり、どうしてあんなのを有り難がるのか全く理解出来なかった。北海道民でマツタケをありがたがるのは、相当高確率で内地出身者である。彼ら彼女らはネイティブ道民とは違い、マツタケの真の実力を知っている、いわば数少ないマツタケ語り部、生き証人達である。しかし、そんな彼らも普段は北海道で息を潜めて暮らしており、マツタケの素晴らしさを語る事はあまり無い。身の回りにマツタケが全く無いわけだから、話をする機会が無いのも当然と言えよう。そんな中で不自然にもマツタケの素晴らしさを語ると、ブルジョワ階級主義者と罵られてしまい、場合によっては党籍剥奪もあり得る(どこの国?)。
そんなマツタケ不毛大国北海道において、ここ十年くらいちょっとした異変が起きている。温暖化の影響なのか、北海道でも僅かながら山でマツタケが獲れる様になってきたのだ。当然だが市場にはほとんど流通しておらず、個人ルートで高級飲食店に流れているようだ。今後北海道でもマツタケの収穫は増えていく事だろう。
ということで、典型的な道民としてマツタケに何の関心も無かった私だが、山で獲れる、となると話は全く別である。
元々山菜を採りに行く派でなので、コクワやヤマブドウ、落葉キノコ獲りながらマツタケも獲れないかな、、、などと都合の良い事を夢想しつつ、ここ数年ちょっと気になっていた。
そんな先日のある日、SNSで二つの発言を見た。一つは札幌の友人がメルカリで安くマツタケを買って美味い美味いと食べていた。メルカリで売ってるの?もう一つはドメーヌタカヒコのオーナーが自分の創ったワイン(恐らくワインラバーならもはや知らない人はいるまい)とマツタケのマリアージュがとても良いので味わって見て欲しい、というfacebookのカキコミだった。実に美味しそうである。その発言には、マツタケはどうにでもなるがどうやったらタカヒコのワインが買えるのか、という多くの嘆きのレスで埋まっていて、それを見てちょっと驚いた。そう、私は全く逆だったのだ。
その日に採れた新鮮な松茸とナナツモリ ピノノワールとのマリアージュ。
採れたての松茸は、七輪で軽く焼き、パっと塩を振るだけ。
松茸の香りが、ナナツモリにより、立体的な秋の森の中へ瞬間移動させてくれます。松茸のみでは味わえない感動を、ワインが何倍にも増幅させてくれるのです。 pic.twitter.com/sRxOAbM5Gc— Takahiko Soga (@DomaineTakahiko) September 21, 2021
(上記引用はツイッター)
10年くらい前から地味にタカヒコのワインを(勿論全部定価で店頭購入)買い集めて、友人からの貰い物のセラーで寝かしており、本数だけは少しある。無いのはマツタケだけなのだ。しかし、マツタケはべらぼうに高い。冷静に考えると、ドメーヌタカヒコのワインは定価で1本四千円しない位。それに対してマツタケは40グラム程度の1本でも1万円近くする事もあり!!単価だけ見たらもはやヤバい白い粉並みの不当価格であり、マトリが動いておかしくない案件である。
当然北海道産のマツタケなどは望むべくもないが、お二人の意見に触発され、ちょっと気になった私は滅多に見ないメルカリをのぞいてみた。「メルカリ マツタケ」とぐぐると流石SEO対策もバッチリのメルカリである。「松茸の中古/未使用品を探そう! 」と言うインデックスページがどんどん引っかかる。ありがとう、でちょっと違う、私が探しているマツタケは中古でも新品同様でも無い。新品なのである。
という事で見てみると、あれ、意外と安い!?以前大丸デパートで見た時は、国産の大きなマツタケ3本で三万円前後ととんでもない価格だったが、ここでは3、4本入って1万円台前半がほとんど。中には数千円のものもある。それでも充分高いのだが、デパートから見ると当然明らかに安い。個人売買なので当然中間マージンも消費税も無い。良し、ブログネタにもなるから(もう動機がなんかおかしい)一つ買ってみよう。という事で、私はその日、ついに人生初の国産マツタケを購入した。熟慮に熟慮を重ねて大丈夫そうな人のを選択(勿論ただの偏見で)。その日の朝山形県米沢市で採れたてのだそうで180g1万2千円である。なかなかの価格である。本当はもっと安いのもあったのだが、何しろ人生初マツタケである。万全を期してあえて少し高めのマツタケをチョイスした。購入ボタンを押す時、良く考えるとたかだか山で生えてる野良キノコに1万2千円?馬鹿じゃ無いの?と一瞬我に帰ったがいやいや全てはこのブログのためだと震える手でポチった。これでしばらくススキノには行けない(そもそも行けてないけど)。
月曜にポチってから木曜には届いた。しかし、ここでまさかのアクシデントが!ゆうパックの冷蔵便で届いたのだが、輸送中に魚の入った別の荷物が隣にいたらしいのだが、あろうことかその際、その荷物が汁漏れを起こし、よりによってマツタケの梱包材を汚してしまったのだ、唖然。。。ゆうパックマジかよそんなのドラネコヤマトでは見たことないぜ。。
恐る恐る中身を開けて見ると、奇跡的にマツタケは無事で、イヤな魚の匂いもついてなかった。ふー良かった、台無しになるところだったぜ、ん、、、?開けたその刹那、マツタケの甘美な吐息が圧倒的な存在感を持って私の顔を包み込んだのであります。それはどのキノコとも違った、あのザマツタケの香りであり、ものすごい華麗さとおしとやかさをもって、「ふふ、こ ん に ち わ」とズイズイと迫って来たのであります。思いっきりたじろいだ私は慌てて彼女をジップロックに閉じ込めると、電光石火の勢いで冷蔵庫の野菜室に軟禁した。こ、これは何かヤバい。桁外れだ。いくら香りを楽しむ食材だと言っても限度があるだろう。これは社会人なりたての若かりし頃、上司に連れられて初めて訪れたクラブ(発音が尻下がりの方)で、隣に来た女性が嗅いだことのない猛烈に良い香りがするなと思った時以上にインパクトである。言うなれば一瞬でシャネルの5番で満たされたドラム缶風呂にドボン!と放り込まれた感じだ(5番知らんけど)。
そして金曜の夜、ついにその時がやって来た。食べ方は調べて一番シンプルで素材の味が楽しめる炭火焼きで、岩塩をつけて食べる事にした。ワインは勿論タカヒコ。在庫を確認して(実は何があるのか自分でも良く分かってない)同じビンテージが3本あったタカヒコ・ソガ ヨイチ・ノボリ 2012パストゥグランを開ける事にした。余市町まで行って入手したワインである。
さて、マツタケの処理だが、ググるとマツタケは水洗いをしては行けないらしい。へーそうなのか。普通のキノコと違うのね。キッチンペーパーを少し湿らせて、石付き辺りから丁寧に吹いていく。汚れは取れるが、そもそもこの取れた茶色い破片がゴミなのか?マツタケの身なのか?良く分からない。何しろ人生初のマツタケである。何もかもが手探りである。恐る恐るこんな感じ?と下処理はあっという間に完了。
という事でマツタケ様に失礼がない様に七輪で炭火を起こす。火が落ち着いた頃を見計らって、いざ、投入。
これまたググったところ、動かしながら満遍なく火を通して、水がマツタケから出てきたら食べ頃との事である(何しろ超ド素人なので)。
頃合いを見て、一つ皿に乗せ、身を割いて見る。熱っつ!繊維が綺麗に裂ける。相変わらずシャネルの5番が凄い。すんごい瑞々しい。意外だ。永谷園のお吸い物のイメージとは大分違うぞ?(当たり前だよ)。どれどれ、やっぱり味はあまりしないのかなぁ?何もつけずにまずは一口頂く。
。。。何コレ。
唖然。美味い、美味すぎる。
口の中で溢れる圧倒的なみずみずしい旨味と繊維。
マツタケは香り愉しむだけの食材だよねとホザいてたのび太は今すぐ廊下に立ってなさい。
塩をつける。
。。。。あかん美味い。。果てしなく美味い。
コレはヤバい。圧倒的な旨味とシャネルの5番の香りをリーチマイケルのビッグマン焼酎5Lボトルでラッパ飲み状態である。くそっ、どうして今まで知らなかったのか。内地のやつらは秋になるとこんなの毎日バカスカ食ってやがったとは・・・。うらやましいぞ!
そしてタカヒコ・ソガ ヨイチ・ノボリ 2012パストゥグランを開ける。8年前に購入してセラーに寝かせていたやつである。マツタケと一緒に頂く。
すんごい美味い。。。
森が見える。。。すいません、もしかして味オンチの私には実は違うものが見えているのかも知れませんが気にしないで下さい。お互いを高め合って、静かに寄り添う、そんな感じですが、ただの神の雫かぶれです。いや、ホントに美味しい・・・。
タカヒコさんが仰っている事の百万分の一位は分かったような気がします。というか、パストゥグラン自体がまず猛烈に美味い。。購入後8年間ずっとセラーで寝かせてたワケですが、こんなんなるのか。。流石タカヒコ。出汁の様な旨味が凄いです。実はせっかく炭火を起こすので、増毛町産の活ヒル貝と甘エビを炙って見たのですが、これもパストゥグランと凄い合いました。赤なのに普通に海鮮とも凄い合う。タカヒコ恐るべし。
結論。マツタケは味があるw。凄い美味い。タカヒコ・ソガ ヨイチ・ノボリ 2012パストゥグランも凄い美味い。合わせるともっと美味しい。と言う極めてその通りの結論となりました。自然に感謝。友人と曽我さんに感謝です。。
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